小町と佐助の法律相談 相談ファイル・・・その1
Q:夫と別居したいのですが、私が出て行った場合、離婚に不利になりますか?
A:夫婦関係が修復できないほど破綻していれば、別居をしても離婚に不利にはなりません。
小町さんの相談
夫は会社員です。長い間、生活費は入れてもらっておらず、夫の給料がいくらなのかさえ私は知りません。夫は賭け事が好きで給料は全て自分で使いこんでしまい、さらにはサラ金や知人から借金までしていることがわかりました。家計は私がパートで何とか支えてきましたが、これからもこのようなギリギリの生活が続くことを考えると心身ともに限界です。これ以上、自分勝手な夫と生活を共にしていくことは不可能です。
- *1 法律相談はこのようにお悩みを具体的に話していただくことから始まります。そして、お客様自身が「どうしたいか」ということがもっとも重要になります。
小町:はい、もうこれ以上、頑張れそうにないので、別居して離婚したいと思っています。
- 弁:わかりました。いろいろと不安に思われることもあると思いますので、解決に向けて共に頑張りましょう。
小:よろしくお願いします。自分なりに別居や離婚のことを調べてきたのですが、夫婦には同居する義務があると知りました。これって本当ですか?
- 弁:本当です。「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」という法律が民法の中にあります。・・・・・・(*2)
- *2 民法752条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」とされています。ヨーロッパでは古くから婚姻とは「ベッドとテーブルをともにする関係」と言われ、婚姻の核心は「共同生活」であるとされています。
小:・・・ってことは、私が家を出て行って別居した場合、私はその義務を違反したことになってしまうんですか?夫こそ、その義務を違反してるって思いませんか?
- 弁:ご主人との夫婦関係が修復できないほどに破綻しているなら、小町さんには別居する正当な理由があると言えます。なので、同居義務違反にはなりませんよ。・・・・・・(*3)
- *3 「破綻主義」といいます。離婚は、婚姻関係が破綻していれば認められます。ですから、もし不倫関係がある配偶者が、悪くない方の配偶者に対して離婚したいと裁判で求めたとしても、破綻していれば離婚が認められることがあります。
小:そうですよね、よかった。でも、その同居義務違反にならないってちゃんとわかってもらえますか?
- 弁:実際の傾向としては、夫婦関係が破綻しているかどうか、同居することで円満な夫婦関係を回復させる可能性があるかどうかを考えます。
小:うちは完全に破綻しているわ。これ以上同居したって、回復する可能性どころか、悪くなる一方だわ・・・。
- 弁:そうですね・・・配偶者が暴行や虐待、不貞などの行為をしたために同居に耐えられなくなった場合、他方の配偶者には同居を拒否する正当な理由があります。また、配偶者が働かずにぶらぶらと遊んで、家庭をかえりみなかったりして夫婦関係が破綻している場合なども同様です。
小:当然よね。あと、別居してから、もし夫が私に「お前が勝手に出て行ったんだから、生活費を渡せ」と言ってきたら、どうしたらいいんですか?私はその要求をのまなくてはならないんですか?・・・・・・(*4)
- *4 「生活費を渡せ」というのは、扶助義務の一内容ということになります。小町さんのような状況でも、彼女自身夫に対して扶助義務を負うのかどうか、彼女は疑問に思っています。
- 弁:いえ、小町さんはその要求に応じる必要はありません。ご主人にはきちんと収入がありますし、それを自分の賭け事に使っているのですから、小町さんがご主人を扶助する義務はないと思いますよ。
- *5 小町さんのように弁護士と法律相談をすることで、精神的に楽になることも少なくありません。法律相談自体は敷居が高いものではありません。お悩みが複雑になる前に、早め早めにご相談することが、トラブル防止につながることがあります。
おまけ
同居義務違反に当たらない、いくつかの理由
・夫または妻が職業上の理由から単身赴任する場合
・病気療養、子どもの教育上の理由、経済的な理由
・夫婦間の一時的な紛争を冷却させるため
この様な理由で一時的に別居することが夫婦共同生活を維持するのに必要な場合、同居義務違反になりません。